東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)45号 判決 1980年2月28日
東京都渋谷区二丁目九番一〇号青山台ビル四〇一号
原告
三陽地所株式会社
右代表者共同代表取締役
関口光太郎
同
賀来伸夫
右訴訟代理人弁護士
秋山昭八
同
鈴木利治
東京都渋谷区宇田川町一番三号
被告
渋谷税務署長
劍持幸逸
右訴訟代理人弁護士
国吉良雄
右訴訟復代理人弁護士
国吉克典
右指定代理人
竹内康尋
同
関川哲夫
同
古俣与喜男
同
池田隆昭
同
高木秀男
主文
一、原告の請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた判決
一、原告
1、被告が昭和五一年六月三〇日付けでした原告の昭和四八年一〇月一日から昭和四九年九月三〇日までの事業年度の法人税の更正処分並びに無申告加算税及び重加算税の賦課決定処分を取り消す。
2、訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
主文同旨
第二、当事者の主張
一、原告の請求原因
1、原告は、不動産売買等を目的とする株式会社であるが、昭和四八年一〇月一日から昭和四九年九月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、原告の行った期限後確定申告、被告の行った更正処分並びに無申告加算税及び重加算税の賦課決定処分(以下「本件処分」と総称する。)、並びにこれに対する異議申立及び審査請求の経緯は、別表のとおりである。
2、しかし、本件処分は、原告が本件事業年度中に販売した横浜市戸塚区笠間町字打越一、六〇九番ないし一、六一二番の四筆の土地(以下「本件土地」という。)の売上原価を誤認し、原告の所得を過大に認定した違法な処分であるから、その取消しを求める。
二、原告の請求原因に対する被告の認否
請求原因1は認めるが、同2は争う。
三、被告の主張
1、原告の本件事業年度の所得金額は、次の表のとおり、申告所得金額から前期分事業税増加額を減じ、これに本件土地売上原価否認額を加えた七九、九六七、五八九円であるから、右金額の範囲内である六二、〇三〇、九三九円を所得金額と認定してなされた本件更正処分は、適法である。
<省略>
2、本件事業年度の前事業年度の法人税について昭和五一年六月三〇日更正がなされたことに伴い、原告の前期事業税が一四三、四六〇円増加したため、これを本件事業年度の損金に算入する。
3、原告は、本件事業年度において訴外株式会社日好に対し本件土地を一七九、五七〇、〇〇〇円で販売し、同金額を本件事業年度の益金に計上して法人税の期限後確定申告を行った。そして、原告は、本件土地を丸福不動産株式会社から代金一四一、〇六〇、〇〇〇円で購入し、また本件土地の宅地造成工事費一五、〇〇〇、〇〇〇円を訴外大宝建設株式会社(以下「大宝建設」という。)に支払ったとし、右合計一五六、〇六〇、〇〇〇円を売上原価として損金に計上し、右の期限後確定申告を行った。
4、しかし、原告は、本件土地を昭和四八年五月二二日訴外福岡廣、同福岡辰雄及び同福岡健一の三兄弟(以下「福岡兄弟」という。)から代金合計七九、〇二三、三五〇円で買い取るとともに、右売買を仲介した訴外福岡皓に対し仲介料として五、〇〇〇、〇〇〇円を支払った。したがって、本件土地の取得価額は、右金額の合計である八四、〇二三、三五〇円である。
5、また、本件土地の売上原価を構成すべき宅地造成工事費はない。
原告は大宝建設に対し本件土地の宅地造成工事を注文し、前渡金一五、〇〇〇、〇〇〇円を支払ったようであるが、大宝建設は右工事未着手のまま倒産したものであり、右工事がなされていない以上、右一五、〇〇〇、〇〇〇円は本件土地の売上原価を構成しない。
なお、原告は、本件訴状において、大宝建設が右工事未着手のまま倒産したことを自認しながら、被告が右主張を援用した後になってこれを撤回し、大宝建設は一五、〇〇〇、〇〇〇円相当の工事を行った後に倒産したと主張を変更するに至ったが、右自白の撤回には異議がある。
また、原告は右前渡金一五、〇〇〇、〇〇〇円について、昭和五九年一〇月二三日付け内容証明郵便で大宝建設に対し工事未着手を理由に返還請求をしているから、右返還請求債権が回収できないことの明らかなものとはいえず、右一五、〇〇〇、〇〇〇円を本件事業年度の貸倒れとして損金に算入することもできない。
6、以上のほか、本件土地の販売収入に対応する売上原価として、原告の申告額に追加算入すべきものはないから、原告申告の前記売上原価一五六、〇六〇、〇〇〇円のうち、4で述べた本件土地の取得価額八四、〇二三、三五〇円を差し引いた七二、〇三六、六五〇円は、これを否認すべきであり、その分原告の所得金額が増えることになる。
したがって、原告の本件事業年度の所得金額は、申告所得金額八、〇七四、三九九円から前期事業税増加額一四三、四六〇円を減じ、それに本件土地の売上原価否認額七二、〇三六、六五〇円を加えた七九、九六七、五八九円となる。
7、本件加算税賦課決定処分は、原告が昭和五一年三月二五日に本件事業年度の法人税額を三、八八五、二〇〇円(このうち三七六、八〇〇円は中間申告により納付の確定した税額であり、差し引き納付すべき税額は三、五〇八、四〇〇円)とする期限後確定申告書を提出したこと及び右申告に対し被告が新たに納付すべき法人税額を二四、七三七、四〇〇円とする本件更正処分をなしたことに伴う処分であり、その内訳は次のとおりである。
<省略>
(一) 本件加算税賦課決定処分のうち重加算税賦課決定処分は、本件更正処分により新たに認定された課税標準たる所得金額のうち三九、一〇〇、〇〇〇円について、原告はその計算の基礎となるべき事実を仮装し、その仮装したところに基づき法定申告期限後に確定申告書を提出したものであるとして、国税通則法六八条二項及び同法施行令二八条二項の規定を適用し、重加算税対象法人税額を一五、六四〇、〇〇〇円とし、同金額に一〇〇分の三五の割合を乗じて得た五、四七四、〇〇〇円を重加算税額とした処分である。
原告は、前記のとおり、本件土地を福岡兄弟から七九、〇二三、三五〇円で買うとともに、右売買を仲介した福岡皓に対し仲介料五、〇〇〇、〇〇〇円を支払った。したがって、本件土地の取得価額は、右金額の合計額である八四、〇二三、三五〇円である。しかるに、原告は、本件土地を丸福不動産株式会社なる架空の会社から一四一、〇六〇、〇〇〇円で買ったように仮装して、取得価額を五七、〇三六、六五〇円過大に計上し、その分所得金額を減じて期限後確定申告書を提出した。右は法人税の課税標準たる所得金額の計算の基礎となるべき事実を仮装したことに該当し、かつ本件重加算税賦課決定処分の対象とした所得金額三九、一〇〇、〇〇〇円は、右仮装の対象となった所得金額五七、〇三六、六五〇円の範囲内であるから、本件重加算税賦課決定処分は適法である。
(二) 本件無申告加算拙のうち九〇九、七〇〇円は、期限後確定申告書の提出後になされた本件更正処分により納付すべき法人税額二四、七三七、四〇〇円から、前記重加算税額の計算の基礎となった法人税額一五、六四〇、〇〇〇円を控除した九、〇九七、〇〇〇円(国税通則法一一八条三項の規定により一、〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額)に、一〇〇分の一〇の割合を乗じて得た額である。
また、本件無申告加算税のうち三五〇、八〇〇円は、本件期限後確定申告書の提出により納付すべき法人税額三、五〇八、〇〇〇円(国税通則法一一八条三項の規定により一、〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額)に、一〇〇分の一〇の割合を乗じて得た額である。
したがって、右金額の合計額である一、二六〇、五〇〇円を賦課する本件無申告加算税賦課決定処分は、国税通則法六六条一項の規定に従った適法な処分である。
四、被告の主張に対する原告の認否
1、被告の主張1は争う。
2、被告の主張2は認める。
3、被告の主張3は認める。
4、被告の主張4は否認する。
(一) 原告は、昭和四八年五月二二日、福岡兄弟所有の本件土地につき、所有者の一人で他の所有者二名の代理人でもある福岡廣との間において、原告が代金合計七九、〇二三、三五〇円で買い取る契約を締結し、同日同金額を福岡廣に支払い、権利証、委任状、印鑑証明書等は翌日受けることになった。ところが、福岡廣との交渉に当たっていた原告の代表取締役関口光太郎が右契約の締結を終えて自宅に戻ると、福岡廣から右契約を解約させてほしい旨の電話があった。関口光太郎が翌日福岡廣方を訪れ解約の理由をただすと、叔父である福岡皓の紹介で本件土地を丸福住宅株式会社へ売ることになったから、原告との売買契約を解約させてほしいとのことであった。そこで、福岡廣に丸福住宅株式会社代表取締役と称する訴外柳達雄との連絡をとってもらい、関口光太郎が同人と面談したところ、同人は福岡皓の仲介で本件土地を買い取ることになり、既に売買契約書にも調印してあるとのことであった。関口光太郎は、本件土地に宅地造成工事を施せば高額で転売できること、福岡廣に対し影響力のある福岡皓の紹介でまとまった契約であればこれを覆すことが難しいこと、宅地造成工事に当たっては福岡廣ら元の地主に開発許可の申請をさせる方が手続が容易であること等を考慮し、同人らと事を構えるのは得策でないと判断し、契約解約に応じたうえ柳達雄から改めて本件土地を買い取るのもやむを得ないと決意した。
(二) そこで、原告は、昭和四八年五月三〇日、丸福不動産株式会社代表取締役と称する柳達雄との間において、代金は一二三、〇六〇、〇〇〇円とし、内金七六、一六〇、〇〇〇円は即日支払い、残金四六、九〇〇、〇〇〇円は昭和四九年三月末日までに支払う、実測により地積にいわゆる縄延び分が認められた場合には後日清算するとの条件で、本件土地を買い取る旨の契約を締結した。そして、右内金七六、一六〇、〇〇〇円の支払いについて、原告は福岡廣から前記支払金を取り戻して決済したいと申し入れたが、右内金は柳達雄が福岡廣から受け取ることになった。
(三) 原告は、昭和四八年七月二五日、右残金四六、九〇〇、〇〇〇円を柳達雄に支払い、本件土地の権利証等を受け取った。
(四) 右売買契約締結後本件土地を実測したところ、売買契約書表示の面積より一四〇坪多い一、二二八坪あることが判明したため、一四〇坪を原告と柳達雄とで折半することとし、昭和四八年七月二五日原告は柳達雄に対し、本件土地が転売できた場合には坪単価を三〇〇、〇〇〇円とした七〇坪の代金二一、〇〇〇、〇〇〇円を追加して支払う旨約した。しかし、最終実測の結果、縄延び分は一二〇坪であることが判明したため、原告は昭和四九年二月二六日柳達雄に対し一八、〇〇〇、〇〇〇円を支払った。
(五) 以上のとおり、原告は、丸福不動産株式会社こと柳達雄から本件土地を代金合計一四一、〇六〇、〇〇〇円で購入したものである。
5、被告の主張5は争う。
原告は、昭和四八年六月二日大宝建設に対し、本件土地の宅地造成工事を注文し、前渡金一五、〇〇〇、〇〇〇円を支払った。大宝建設は左工事完成前に倒産したが、倒産前に施行した工事は少なくとも一五、〇〇〇、〇〇〇円に評価できるから、右金額は本件土地の売上原価に算入さるべきである。なお、原告は、当初、大宝建設が右工事着手前に倒産したと述べたが、それは真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであるから撤回する。
6、被告の主張6は争う。
原告は、昭和四八年九月一三日、本件土地の畑部分の農地転用手続費用として二〇、〇〇〇円を訴外大東秀夫に支払い、また、公道から本件土地に至る道路の拡張のため隣接地の借地権を買い取り、訴外秋岡春雄に右買取代金一七〇、八〇〇円を支払った。右合計一九〇、八〇〇円も売上原価に算入されるべきである。
7、被告の主張7は争う。
第三、証拠
一、原告
1、甲第一号証の一ないし三、第二号証の一及び二、第三号証の一及び二、第四号証ないし第九号証、第一〇号証の一及び二、第一一号証、第一二号証並びに第一三号証の一及び二
2、証人福岡廣、同柳達雄及び同稲葉繁男の各証言並びに原告代表者関口光太郎尋問(第一回及び第二回)の結果
3、乙第一号証、第二号証、第九号証、第一〇号証、第一三号証、第一四号証、第一七号証、第一八号証の二及び四並びに第二二号証の原本の存在及び成立は認める。乙第七号証及び第一九号証一ないし二〇の成立は不知。乙第一五号証、第一六号証、第一八号証の一及び三並びに第二〇号証の一ないし六の原本の存在及び成立は不知。その余の乙号各証の成立は認める。
二、被告
1、乙第一号証ないし第一七号証、第一八号証の一ないし四、第一九号証の一ないし二〇、第二〇号証の一ないし六、第二一号証の一及び二、第二二号証、第二三号証の一ないし三、第二四号証、第二五号証、第二六号証の一及び二、第二七号証の一及び二並びに第二八号証
2、証人福岡廣の証言
3、甲第四号証、第八号証及び第九号証の成立は認める。甲第五号証の原本の存在及び成立は認める。甲第七号証及び第一三号証の一の郵便官署作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は不知。その余の甲号各証の成立は不知。
理由
一、当事者間に争いのない事実
次の事実については、当事者間に争いがない。
1、原告が不動産売買等を目的とする株式会社であること、並びに、本件事業年度の法人税について、原告の行った期限後確定申告、被告の行った本件処分、並びにこれに対する異議申立及び審査請求の経緯が、別表のとおりであること。
2、原告の前事業年度法人税の更正処分に伴い、前期事業税が一四三、四六〇円増加したため、これを本件事業年度法人税の損金に算入すべきこと。
3、原告が、本件事業年度において株式会社日好に対し本件土地を一七九、五七〇、〇〇〇円で販売し、同金額を本件事業年度の益金に計上して法人税の期限後確定申告を行ったこと。また、原告が、本件土地は丸福不動産株式会社から代金一四一、〇六〇、〇〇〇円で購入したものであるとし、更に本件土地の宅地造成工事費として大宝建設に対し一五、〇〇〇、〇〇〇円を支払ったとして、右合計一五六、〇六〇、〇〇〇円を売上原価として損金に計上し、右の期限後確定申告を行ったこと。
4、原告が、昭和四八年五月二二日、福岡兄弟から本件土地を代金合計七九、〇二三、三五〇円で買い取る契約を締結し、同日同金額を支払ったこと。
二、本件土地の購入代金
1、原告は、本件土地に関する前記売買契約の締結後に福岡廣からその解約の申込みを受けてこれを承諾し、福岡兄弟から本件土地を購入した丸福不動産株式会社こと柳達雄との間において、改めて売買契約を締結し、同人に対し合計一四一、〇六〇、〇〇〇円の売買代金を支払った、と主張する。そして、この主張に添う証拠としては、甲第一号証の一ないし三、甲第二号証の一及び二、甲第六号証、甲第一三号証の一及び二、証人福岡廣及び同柳達雄の各証言並びに原告代表者関口光太郎の尋問(第一回及び第二回)の結果がある。
2、そこで、右に掲げた証拠の信用性について検討するに、これらの証拠のうち原告の前記主張に添う部分は、次に述べるような理由によりいずれも措信できず、内容虚偽のものと考えられる。
(一) 原告が昭和四八年五月二二日福岡兄弟から本件土地を七九、〇二三、三五〇円で買い取る契約を締結し、原告から福岡兄弟に対し即日右代金が支払われていることは、前記のとおり当事者間に争いのない事実であり、かつ、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証、乙第九号証及び乙第一七号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認めることのできる乙第一五号証及び乙第一六号証並びに成立に争いのない乙第二一号証の一及び二により客観的に証明された事実であるところ、福岡兄弟を代表する福岡廣の側において、原告との右売買契約を解約すべき理由が全くない。すなわち、証人福岡廣及び同柳達雄の証言するところによると、原告との契約による売買代金と、丸福住宅株式会社こと柳達雄と締結した契約による売買代金とは同額であり、売先を変更する利益がないばかりか、柳達雄と締結した契約は代金が即金ではなく本件土地を転売した代金の中から支払うことになっていたというのであって、原告との契約より内容が不利である。その上、丸福住宅株式会社あるいは丸福不動産株式会社なるものは名前だけのもので正規に設立されたものでなく、その代表取締役と称する柳達雄も資力のはっきりしない不動産ブローカーであることは、証人柳達雄の証言から既に明らかであるから、福岡廣側において、原告から既に売買代金を受領した後になってわざわざ原告との契約を解約し、それより不利な内容の契約を丸福住宅株式会社ないし柳達雄との間で締結するというようなことは、常識ではおおよそ考えられないことである。
(二) 一方、原告側においても、福岡兄弟に合計七九、〇二三、三五〇円もの大金を支払いながら、本件土地の所有権移転登記に必要な権利証、委任状、印鑑証明書等の交付を受けず、その上たやすく解約申入れに応じて柳達雄との間で右売買代金より六二、〇三六、六五〇円も高い価格で本件土地を買い取る契約を締結し、福岡兄弟側に損害賠償請求その他の責任追求もしていないということは、不動産業者の行動としておよそ考えられないところである(原告代表者関口光太郎の尋問(第一回)の結果によっても、契約解約について首肯できる理由が存在したとは認められず、また、同人が原告の権利確保のため十分尽した形跡も認め難い。)。特に、昭和四八年七月二五日に至り、本件土地の実測面積が売買契約書表示の面積より一四〇坪多い一、二二八坪であることが判明したから、一四〇坪を原告と柳達雄とで折半することとし、原告は本件土地が転売できた場合には柳達雄に対し坪単価を三〇〇、〇〇〇円とした七〇坪の代金二一、〇〇〇、〇〇〇円を追加支払う旨約し、甲第二号証の一の念書を交換したという証人柳達雄の証言及び原告代表者関口光太郎の尋問(第一回)の結果は、明らかに事実に反するといわざるを得ない。すなわち、本件土地の実測面積が一、二二八坪あることは、原告と福岡兄弟間の同年五月二二日付け売買契約書である前掲乙第一号証に表示されているところであって、その後になり判明したことではない。また、原告と丸福不動産株式会社こと柳達雄間の売買契約書と称する甲第一号証の一には、実測により地積に増減あるときは坪一〇五、〇〇〇円の単価により清算するとの条項があり、原告が坪三〇〇、〇〇〇円の単価で清算することを約したということは、極めて不自然である。また、右清算金として柳達雄に支払ったという一八、〇〇〇、〇〇〇円の出所に関する原告代表者関口光太郎の供述には作為な変更の跡が顕著であり、甲第二号証の一の念書の不自然さも考え併せると、柳達雄への一八、〇〇〇、〇〇〇円の支払いを証する甲第二号証の二も虚偽のものといわざるを得ない。
(三) 証人福岡廣、同柳達雄及び原告代表者関口光太郎の各供述は、福岡兄弟に対する本件土地の売買代金の支払方法について食違いを見せているほか、次に述べる点においても信用性が乏しいいものである。
(1) 福岡廣は、成立に争いのない乙第八号証によると、昭和五一年五月七日渋谷税務署員に対して、昭和四八年五月二二日原告との間で本件土地の売買契約を締結して契約書を交換したが、後日関口光太郎に右契約書に基づいて税金の申告をする旨告げたところ、関口光太郎は買主を原告のかわりに丸福住宅株式会社とする契約書を持って来たものであり、柳達雄なる人物とは会ったことがない、と述べていることが認められている。しかるに、その証人尋問では、右と矛盾する証言をなし、昭和四八月五月二二日原告から福岡兄弟に支払われた本件土地代金七九、〇二三、三五〇円について、右の日より一週間程後に丸福住宅株式会社の谷口という人から受け取ったと明らかに虚偽の証言を行い、また、自ら関口光太郎との間で本件土地を右代金で原告に売却する話をまとめながら、丸福住宅株式会社との間で右と同額の代金による売買をまとめてくれた福岡皓に三、〇〇〇、〇〇〇円ないし五、〇〇〇、〇〇〇円もの謝礼を支払ったとか、更には乙第一号証の契約書は仮案のつもりであったとか、原告からは売買契約の解約について何の抗議も受けなかったとかいう不自然な証言をしている。
(2) 柳達雄は、前述の本件土地の売買代金について、うち七六、一六〇、〇〇〇円は昭和四八年五月三〇日に原告から福岡兄弟に直接支払ってもらい、残りの代金は右の日よりも前に自分が現金で福岡廣に支払ったと虚偽の証言をなし、また、自分が丸福住宅株式会社あるいは丸福不動産株式会社の名称で不動産売買を行っていたという事務所の所在地や電話番号等について明確な証言ができなかった。
(3) 関口光太郎は、本件土地の買受代金を決済するまでの経過につき、第一一回口頭弁論期日の尋問では、甲第一号証の二及び三等をひきながら、昭和四八年五月三〇日に日本信託銀行大船支店で柳達雄の希望に従い七六、一六〇、〇〇〇円を福岡廣に直接支払ったと供述したところ、被告から右供述が誤りであることを示す前掲乙第一五号証ないし第一七号証が提出されるに及んで、第一四回口頭弁論期日の尋問で、右七六、一六〇、〇〇〇円は同月二二日に福岡廣側に支払いずみであった旨その供述を変更するに至った。単なる記憶違いとは認めがたい右供述の変更は、原告が丸福不動産株式会社ないし柳達雄から本件土地を買ったという事実が虚偽のものであり、原告の提出した甲第一号証の一ないし三、甲第二号証の一及び二が仮装のものであることを物語るものといわざるを得ない。
(四) 甲第六号証は丸福住宅株式会社を買主とする本件土地の昭和四八年五月二二日付け売買契約書であるが、原告を買主とする同じ日付けの売買契約書である乙第一号証が福岡兄弟三名の捺印しかなく、土地引渡しと代金支払いの期限の定めもないずさんなものである。また、甲第六号証には丸福住宅株式会社の住所として川崎市鷺沼一丁目一八番八号と表示されているが、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第六号証が真実の内容を表わすものとは考え難い。
甲第一三号証の一及び二は福岡廣が証言後に関口光太郎にあてた手紙であるが、その内容も福岡廣の証言同様措信し難いものである。
3、以上に述べたところを総合すると、原告は昭和四八年五月二二日福岡兄弟から本件土地を七九、〇二三、三五〇円で購入したものであり、これをその後解約し、同月三〇日丸福不動産株式会社こと柳達雄から本件土地を改めて購入したという事実はないものと認めるのが相当であり、他にこの認定を覆すに足る証拠はない。したがって、本件土地の購入代金は七九、〇二三、三五〇円と判断される。
三、本件土地の宅地造成工事費
1、原告代表者関口光太郎の尋問(第一回)の結果とこれにより真正に成立したものと認められる甲第三号証の一及び二によると、原告は昭和四八年六月二日大宝建設に対し本件土地の宅地造成工事を注文し、前渡金として一五、〇〇〇、〇〇〇円を支払った事実が認められる。
2、被告は、原告の自白を援用して、大宝建設は右工事に着手する前に倒産し工事を全く行っていないから、右一五、〇〇〇、〇〇〇円は本件土地の売上原価を構成しないと主張するのに対し、原告は、右自白を撤回して同額の工事が行われた旨を主張する。
しかしながら、仮に右一五、〇〇〇、〇〇〇円全額を売上原価と認めるべきものとしても、本件処分の適否を判断する上において影響がないことは、後述のとおりである。
四、本件土地の売上原価追加額
原告主張の隣接地の借地権買取代金一七〇、八〇〇円及び農地転用手続費用二〇、〇〇〇円についても、三で述べたと同様である。
五、原告の所得金額
前述のとおり、原告の本件事業年度法人税の申告所得金額は八、〇七四、三九九円であり、これから控除される前期分事業税加額は一四三、四六〇円である。そして、原告は本件土地の取得価額を一四一、〇六〇、〇〇〇円として右申告を行ったが、右取得価額は、原告が本件土地の購入代金として福岡兄弟に支払った七九、〇二三、三五〇円と、被告において自認する福岡皓への仲介手数料五、〇〇〇、〇〇〇円との合計額八四、〇二三、三五〇円であるから、原告の申告取得価額のうち五七、〇三六、六五〇円は否認されるべきである。したがって、三で述べた本件土地の宅地造成工事費一五、〇〇〇、〇〇〇円について原告の申告をそのまま是認すべきものとすれば、所得金額八、〇七四、三九九円から前期事業税増加額一四三、四六〇円を減じ、これに取得価額否認額五七、〇三六、六五〇円を加えた六四、九六七、五八九円となり更に四で述べた売上原価追加額一九〇、八〇〇円が存在するものとしてこれを減じても、六四、七七六、七八九円となる。すなわち、右宅地造成工事費及び売上原価追加額の存否いかんにかかわりなく、原告の所得金額が少なくとも六四、七七六、七八九円になるのであるから、右金額の範囲内である六二、〇三〇、九三九円を所得金額と認定してなされた本件更正処分は、適法といわなければならない。
六、本件加算税賦課決定処分の適法性
1、前記認定のとおり、本件土地の取得価額として原告が申告した額のうち否認すべき額が五七、〇三六、六五〇円あり、売上原価として追加すべき一九〇、八〇〇円を減じても、原告は期限後確定申告において課税標準たる所得金額を五六、八四五、八五〇円過少に申告したことになる。この期限後確定申告は、前記認定に照らし、原告において本件土地を丸福不動産株式会社から一四一、〇六〇、〇〇〇円で取得したとの事実を仮装し、その仮装したところに基づき行ったものと認めるべきであるから、国税通則法六八条二項の規定に基づき重加算税を課すべき場合に該当する。そして、土地譲渡に伴う五六、八四五、八五〇円の所得に対する法人税額を基礎として計算した重加算税額が五、四七四、〇〇〇円を超えることは明らかであるから、本件重加算税賦課決定処分は適法というべきである。
2、本件重加税賦課決定処分が右のとおり適法である以上、本件無申告加算税賦課決定処分も、事実摘示第二の三の7の(二)記載のとおり適法であることが明らかである。
七、結論
よって原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条の規定を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 泉徳治 裁判官 岡光民雄)
別表
<省略>